現代では、インターネットの普及も手伝い、国の壁を越えてグローバルに活動できるようになりました。
世界中の人とやり取りが可能となり、例えば、英会話のオンラインレッスンでは、世界の各地に先生が待機し、時差を利用して24時間レッスンを受けることが可能になる、という便利なシステムも生まれています。
このように、ビジネスの場でも世界を視野に入れた活躍も増えている中で、海外を相手にビジネスを展開する場合、取引相手の国や言語について正しく理解することは、信頼関係を築くための第一歩です。
もし、その大切な第一歩が言語の壁によって阻まれてしまっていたら・・・。そんな中で急速に需要が増えてきたのが、「機械翻訳」です。
機械翻訳とは?
「機械翻訳」とは、文字通りコンピューターによってオートマチックに翻訳をする方法です。
その技術は近年、飛躍的に向上しています。初期の頃は、訳された日本語を見てもいまいち意味がわからない、日本語として成立していない…、何となく理解するためには利用できたものの、品質に大きな問題がありました。
ところが、特にこの10年くらいにおける技術の躍進には目を見張るものがあります。
東京オリンピックの開催が決定した以降、外国人観光客への対応を見込んで、機械翻訳機能を登載した案内サービスが増えており、その性能に驚いた方も多いのではないでしょうか?
なお、機械翻訳のシステムは、大きく3つに分類されます。
ルールベース翻訳
文章を単語や文節にバラバラにしてから逐語訳をするシステムです。辞書情報から補足する手順で翻訳が進みます。古くからある機械翻訳のシステムがこれになります。
ただ名前が示すように、ルールに基づいて過去に蓄積されたデータを利用して翻訳結果を導くので、文法のルールに沿っていない文章には正確さは期待できません。
統計ベース翻訳
膨大に蓄積された対訳データをもとに、機械翻訳をトレーニングさせる方法です。
単語についての翻訳の確率や並び替えの確率などを含む「対訳コーパス」を利用して統計的に学習します。
対訳コーパスというのは、多言語間の翻訳文を構造化したものです。文と文が対訳になってまとめられており、機械翻訳の学習データとして用いられています。
ルールベース翻訳に比べてクオリティは高くなりましたが、翻訳する言語間で文法の構造が違う場合、精度は期待できなくなります。
ニューラル機械翻訳
日本語など、文法や単語の類似が少ない言語を翻訳する場合、従来の翻訳技術では精度に限界がありました。
そこで、人が脳に記憶するシステムを機械に応用し、脳神経細胞に似た「ニューラルネットワーク」を利用するという技術革新で、飛躍的な進歩を成し遂げました。
膨大な対訳データをコンピューター自身が学習することで精度を上げるこのシステムは、データ処理能力と速度が格段に進歩した今の時代だからこそ実現した技術です。
前述の2種類の機械翻訳と比べ、最も細かいニュアンスまで反映でき、自然で高い精度の翻訳が可能となっています。機械翻訳の代表といわれる「Google翻訳」も、このニューラルネットワークを利用した機械翻訳です。
人の力は不要となってしまうのか?
機械翻訳は、ニューラルネットワークの登場以来、格段に精度が向上しました。
とは言っても、翻訳する精度にはまだまだばらつきがあり、一般的ではない学術的な用語や専門的な単語は正確に翻訳できない場合も多く、不完全な部分は残ります。
機械翻訳ができるのはいわば直訳だけです。ゲームやウェブサイトで行われるローカライズと呼ばれる作業の様に、国の文化や習慣に対応することまではできません。
また、学術論文や契約書など、専門的な言語や正確性や品質が求められる文章には到底適切とは言えません。日常会話であれば役立つ機械翻訳も、ビジネス、研究発表など専門性が求められる場面では全くの力不足です。
そこで求められるのが人の力です。つまり、人力翻訳、翻訳家による翻訳になります。
翻訳家が作業することで
某企業のCMでは、未来ロボットが効率を第一に仕事を進めようとする一方で、人間の社員が、相手の心を読み取り心に寄り添って対応しようとすると、未来ロボットは「心」をという意味が理解できず、パニックを起こします。何ともコミカルであり印象的です。
翻訳についても同様で、機械翻訳は未来ロボットのように、データにのみ基づいて行われるので、文章の背景や細かなニュアンスまでくみ取ることができず、用途を踏まえた適切な表現を選択する等の柔軟な作業もできません。
その点、人力翻訳であればそれができるのです。専門分野であれば、その分野に適した翻訳家が翻訳作業をすることで、専門用語の正確さはもちろんのこと、その分野や用途に適した文書に仕上げることができます。
学術論文、契約書、ウェブサイトなど、日本語での微妙なニュアンスを汲み取った適切な表現を選択したり、想定される読み手に向けた理解しやすい言葉の選択なども人力であれば可能となります。
人力翻訳の必要性
簡単な例えを用いると、日本のことわざを英訳した場合、日本語をそのまま訳した英語ではなく、まったく別の表現だったりするのを目にしたことはありませんでしょうか?
When one door shuts, another opens.
捨てる神あれば拾う神あり
これを見ると、日本語にある「神」という表現が英語では使われていません。機械翻訳にこの日本語を入力すれば、英文内に「god」という単語が入るであろうと思われます。
でも、これを人である翻訳家が翻訳すると、元の「捨てる神あれば拾う神あり」という意味を理解し、その意味のことわざは英語では何と言うのかを考えます。
人によって書かれた文章に寄り添い、理解して翻訳するのが人力翻訳なのです。
文化や背景を踏まえて、自身の経験やバックグラウンドも利用して幅広く対応できるのも人力翻訳の強みではないでしょうか。
日に日に進化を続けている機械翻訳ではありますが、今のところは、日常会話程度の文章を理解するレベルに止め、正確さが求められる場面では、人の力による翻訳は断然必要であると思われます。