翻訳会社を選ぶ時、最も重要視するのはどんな点でしょうか?真っ先に思い浮かぶのは、翻訳品質や費用。けれども、忘れてほしくない注意点がもう一つあります。
それは、情報の安全性です。発表前や投稿前の研究論文、発売前の新製品情報や大きな取引の契約書など、翻訳を依頼する原稿には非公開や未公開の重要情報が数多く含まれています。そのため、翻訳する側と翻訳を発注する側との間で、そのような情報の守秘を義務付けるための秘密保持契約、いわゆるNDAが欠かせません。ここからは、NDAを取り交わす際の注意点をご紹介します。
“発注前”にNDAを取り交わす
安全を確保するための契約は、安全を脅かすような問題が生じる前に締結しなければ意味がありません。
従って、翻訳を依頼する原稿に記述された情報の漏洩を防ぐ目的のNDAであれば、発注前に取り交わすことが大切です。当たり前のことのようですが、翻訳を急ぐあまりにNDAを取り交わすことを忘れてしまうことがよくあります。
発注後、仮に翻訳会社の落ち度で原稿内の情報が漏洩しても、NDAが取り交わされていない場合は、損害を訴えることができません。NDAは必ず”発注前”に取り交わし、原稿情報の安全性を確保した上で、正式発注を行いましょう。
翻訳を発注する際には、見積りをとるのが一般的で、その際に最終原稿を翻訳会社に提供します。この見積り段階での情報漏洩を心配する顧客も少なくないことから、見積りの際にNDAの取り交わしにも翻訳会社は応じます。翻訳を外注する時は、原稿内容の重要度に応じて、見積りの時あるいは正式発注の時のいずれかの、必ず“発注前に”NDAを取り交わしましょう。
“署名前”に契約内容の確認
多くの翻訳会社は、そのHP上で守秘義務に関するポリシーを開示しています。発注者が個人の場合、また非常に急ぎの案件の場合等には、書面による正式なNDAを取り交わさずに、そのポリシーをもって原稿情報の安全性が確保されているとみなして翻訳発注してしまうことがほとんどです。
けれども発注者が法人の場合、また個人であっても原稿内容に重要な情報や特殊な情報が含まれる場合は、情報漏洩による影響やダメージが大きいため、HPの守秘義務ポリシーでは不十分。対象となる原稿情報の取り扱いに関して、正式なNDAを取り交わす必要があります。
このような顧客ニーズに対応するために、翻訳会社は自社作成のNDAを常備しています。しかし、多くの案件をかかえる翻訳会社が用意しているNDAは、どのような案件に使えるようにあまり詳しく書かれていない場合が一般的。書面のNDAを取り交わしたから、もう大丈夫、と安心してしまうのは、危険です。
情報の取り扱いで注意して欲しいことがきちんと契約書に書かれているかどうか、しっかり確認しましょう。もし必要なことが書かれていない場合は、翻訳会社側にそれを伝え、納得のいくNDAに改訂してもらいましょう。契約書の改訂作業には、時間がかかる場合があります。情報管理に特別の配慮が必要な翻訳を発注する場合は、事前に翻訳会社からNDAを取り寄せて内容を確認することをお勧めします。
NDAを翻訳者にも徹底する
翻訳会社とのNDAでは、発注する個人や法人と、翻訳会社の間で締結するのが最も一般的ですが、実際に翻訳原稿に接するのは翻訳者や校閲者です。
会社とのNDAが実務担当者に徹底されることを確実にするには、場合によっては翻訳作業に携わることが決まった実務者とも同様のNDAを取り交わす必要があるかもしれません。自社で翻訳者や校閲者を雇用している場合は、既に翻訳会社とNDAを取り交わしていて、案件に関わらず原稿の情報について守秘義務が徹底されているのが通常です。
ですから、さらに実務者との個別NDAが発生するのは余程特殊なケースだけでしょう。注意が必要なのは、比較的料金が安い翻訳会社の場合です。そのような会社は人件費を抑えるために、雇用せずに外部の翻訳者や校閲者と契約していることが少なくありません。もちろん外部の契約翻訳者や校閲者と翻訳会社の間で取り扱う原稿についての守秘義務契約は行っているはずですが、それが在宅での作業においてどの徹底されているかどうかは不確かなところがあります。外部の人材によって翻訳作業が行われているような翻訳会社に発注する場合は、NDAがどのように徹底されているか確認しましょう。
実績豊富な翻訳会社を選ぶ
HP等をチェックした結果、もし納得できるような情報の安全対策がとられていない場合は、料金が少しアップしても、社内人材でNDAが徹底されている翻訳会社への発注を検討して下さい。情報の安全性が損なわれてしまうことによって発生する損害は、広範囲に、また長期におよぶケースが少なくありません。その損害を補うためにかかる費用は莫大です。
情報の安全確保を優先したい重要な原稿の翻訳発注で、NDAの取り交わしが伴うような場合は、多少料金は高くても、大手企業からの受注実績が豊富で信頼性の高い翻訳会社を利用するのが無難です。